とろろ豆腐百珍

読んだ本の感想などを書きます

2022-01-01から1年間の記事一覧

『即興詩人』森鷗外の恋愛シミュレーションゲーム的可能性

アンデルセンの長編小説『即興詩人』を読んだ。 日本では『舞姫』『うたかたの記』『文づかい』と同じような、森鷗外の擬古文による翻訳が有名な作品。私はもともと鷗外が擬古文で書いた三部作が好きで(それこそ昔下手なパロディを試みたことがあるくらい好…

『神クズ☆アイドル』感想 ファンとアイドルのエネルギー相互補完問題

いそふらぼん肘樹『神クズ☆アイドル』の1〜6巻を読んだ。 いや、め〜ちゃくちゃおもしろい!!!! 神クズ☆アイドル: 1 (ZERO-SUMコミックス) 作者:いそふらぼん 肘樹 一迅社 Amazon 作者の肘樹さんのことはWEBラジオ『人生思考囲い』にゲストで出演していた…

サラ・ピンスカー『いずれすべては海の中に』

いずれすべては海の中に (竹書房文庫) 作者:サラ・ピンスカー 竹書房 Amazon 全体の感想 「一筋に伸びる二車線のハイウェイ」 「そしてわれらは暗闇の中」 「記憶が戻る日」 「いずれすべては海の中に」 「彼女の低いハム音」 「死者との対話」 「時間流民の…

刺青殺人事件、十三角関係

高木彬光の『刺青殺人事件』と山田風太郎の『十三角関係』を読んだ。 どちらも戦後に登場した新人推理作家がほぼ初めて書いた長編作品(刺青殺人事件は1948年の高木彬光のデビュー作、十三角関係は1956年の山田風太郎初単独長編)で、題材も似ているだけにそ…

打撃マンという思想 あるいは、タイラー・ダーデンはいかに生きるべきか

先日Kindleで購入した山本康人『打撃マン』を読んで、衝撃を受けた。一見するとストーリーはなんてことない、ムキムキの男(ときに女)がどうしようもない小悪党をパンチ一発で粉砕する、それだけの話に思える。しかし、読み終えたときに感じたのは爽快感よ…

レッツゴー怪奇組、リコリス・ピザ、堕落

最近読んだり観たりしたものの感想です。 オモコロで連載されているビューさんの『レッツゴー怪奇組』3巻を読んだ。ちょっと前に発売されてすぐに買ってしばらく積んであったのだけど、安定して面白い。古くなった洗濯機(の霊)の挙動に思い当たる節があり…

久生十蘭『墓地展望亭・ハムレット他六篇』

久生十蘭の短編集『墓地展望亭・ハムレット他六篇』を読んだ。ここ最近ずっと読み進めている山田風太郎の日記の中で、『ハムレット』が褒められているのを見て「へ〜」と思って読んだのだけど、面白かった。風太郎は読んだ本の感想はあまり書かないし、褒め…

映画「ナイル殺人事件」感想 ――2022年の『ナイルに死す』

※「ナイル殺人事件」および原作『ナイルに死す』のネタバレを含む感想です。 はじめに あらすじ 大きく変わった<容疑者>たち 原作を補う多様な愛のかたち 2丁の銃の意味 変わらなかった主役たち はじめに ケネス・ブラナー監督・主演の「ナイル殺人事件」…

そして男は海に向かった ――その後の「耳なし芳一」考

怨霊に取り殺されそうになった盲目の琵琶法師芳一が全身にお経を書いて逃れようとするが、耳にだけお経を書き忘れてしまい怨霊に耳を取られてしまう。 「耳なし芳一」を初めて聞いたときから思っていたのだが、耳を失った後の芳一は怨霊退治に無双できるので…

東京事変「群青日和」の謎を解く――突き刺す十二月と伊勢丹の息が生む魔物

はじめに 東京事変の楽曲「群青日和」の歌詞は謎に満ちている。 一見したところ東京に生きる「わたし」と「あなた」のすれ違いを描いているようだが、個々のフレーズは「嘘だって好くて沢山の矛盾が丁度善い」「高い無料の論理」とそれ自体が曖昧で矛盾をは…