とろろ豆腐百珍

読んだ本の感想などを書きます

2021-01-01から1年間の記事一覧

偶然に意味を見出そうとしてしまう話(ガルシア=マルケス『予告された殺人の記録』)

ガルシア=マルケスの『予告された殺人の記録』は片田舎の町で起きたある奇妙な殺人事件に関する証言を集めた物語です。 事件の被害者となったサンティアゴ・ナサールが殺されることはあらかじめ犯人によって予告されており、サンティアゴと一部の人たちを除…

幸田露伴『運命・幽情記』

西遊記を読んだのは小学三年生頃、岩波少年文庫で上中下巻、当時の私には最も長大な本だった。小学生の読んだ印象としては、斉天大聖とか天蓬元帥猪悟能八戒とか、文中に屹立する漢字のトーテムポールが異様にかっこよかった。のちに北斗神拳や法律用語に対…

小澤匡行『1995年のエアマックス』

エアマックスといえば『遊戯王』の城之内が「エアマッスルハンター」に強奪されていたアイテムというイメージしかなかった。私は1995年生まれなので、その頃の空気感のようなものが知りたくて興味を持っただけだったけれど、思わず何足も登場する名作の商品…

江戸っ子VS文明開化 ほろ苦風味(山田風太郎『警視庁草紙』感想)

山田風太郎の連作長編『警視庁草紙』を読んだ。忍法帖シリーズの後に書かれた「明治もの」の第一作。山田風太郎作品のいろいろな魅力が多面的に詰まっていてとても面白かった。 忍法帖が能力者同士による多対多のチームバトルというフォーマットを開発したよ…

魯迅の寂寞と大塚愛「SMILY」

最近は魯迅の小説をよく読んでいる。魯迅は好きな作家で、何が好きかというと悲しい時も悲しい自分自身を疑っているような煮え切らなさが好きだ。有名な「故郷」の「思うに希望とは、もともとあるものともいえぬし、ないものともいえない。それは地上の道の…

あらゆる社会矛盾はバトル漫画に通ず(『かんかん橋をわたって』))

草野誼『かんかん橋をわたって』という壮大な嫁姑・サーガを読んだので、それについて話します。 『かんかん橋をわたって』の舞台となる桃坂町は、川東・川南・山背という三つの地区で成り立っています。主人公の萌は、川南から町をつなぐ「かんかん橋」を渡…

林芙美子『浮雲』の感想

林芙美子『浮雲』を読んだ。戦時下の仏印で出会って恋に落ちた男女二人が、敗戦後の日本で落ちぶれながらどうにかこうにか生きていくというストーリー。私はこの話を、虹を見てしまった人の残酷な運命を描いているなと感じながら読んでいた。 作中で「虹のよ…

もしも学校にテロリストがやってきたら(月村了衛『槐』)

「もしも学校にテロリストがやってきたら」という妄想をしたことがありますか? しかもそのテロリスト相手に自分が大活躍してヒーローになる妄想を。 こんな妄想をしていた人は大体クラスで目立たない内気な少年少女だったと思うのですが、普段目立たない俺…

武田泰淳『ひかりごけ』の感想

武田泰淳の中編小説四篇を集めた新潮文庫本『ひかりごけ』を読んだ。収録順に「流人島にて」「異形の者」「海肌の匂い」「ひかりごけ」と続き、どれも1940年代後半~50年代前半の作品。 四つの作品どれにもいえることだが、光の描写、色彩の描写に力が…

負けヒロインは勝負に負ける性格か(坂口安吾『勝負師』)

負ける性格、というものがあるか、どうか。 ラブコメ漫画やライトノベルのキャラクター属性の一つに「負けヒロイン」というものがある。負けヒロインとは、主人公に思いを寄せていながらも様々な事情により、物語の結末で結ばれなかった(結ばれなさそうな)…

『エアマスター』とランキングを超えた何か

柴田ヨクサルの『エアマスター』はストリートファイターの相川摩季(通称エアマスター)が色んな強敵とストリートファイトをする話で、大まかに3部構成に分けることができます。路上で出会う様々なストリートファイターと勝負をしていく序盤、ストリートフ…

化け物は怖いけど、好きな人は好き(舞城王太郎『深夜百太郎』「三十六太郎 横内さん」)

パニック映画のよくあるツッコミどころに「危険な所でイチャつくカップル」があります。 人食いザメが出るビーチで、もう何人も犠牲者が出ているのに情熱的な愛を交わす男女が出てきたら、観客としてはいやはよ逃げろやと思うわけです。で、そういう人たちに…