とろろ豆腐百珍

読んだ本の感想などを書きます

2023-01-01から1年間の記事一覧

ブラウン神父の童心

チェスタートンの推理小説『ブラウン神父の童心』を読んだ。創元推理文庫の新版で、中村保男の訳。帯文には「新版 新カバー」とあるが、新訳ではなく旧版(1982年初版)の訳をそのまま使っているようで、現代日本語としてはやや不自然な文章で少し読みづらい…

論理のYU-GI-OH!

またまた山田風太郎のこと。 私が初めて触れた風太郎作品は一番メジャーな『甲賀忍法帖』で、その後『戦中派不戦日記』を読んで衝撃を受け、『虫けら日記』『不戦日記』から『復興日記』までの「戦中派日記」にドハマリした。実は『不戦日記』を最初に読んだ…

ポコモコ王国からの招待状

先週の『女甲冑騎士さんとぼく』に「中学生は”団”が好き」という話があった。 tonarinoyj.jp 私が中学生のころも、”団”、流行ってました。SOS団とか、ワサラー団とか、モンハンのなんかそういうのとか。あとや団(SMA NEET Project)。 『女甲冑騎士さんとぼ…

中島敦の李陵を読み直したらやっぱりよかった

中島敦の『李陵』を久しぶりに読んだ。多分10年ぶりに。 高校3年の春、大学受験があらかた終わりかけた頃に、その日の受験会場のついでに回った神保町の三省堂書店で新潮文庫の『李陵・山月記』を買って読んだのが最初だから、あれから本当に10年が経ったの…

What's the 青一髪?

西暦一六三七年十二月中旬。 水天をわかつ青一髪もなく、ただ灰色に泡だつ荒涼たる海からくる風は、山と森をその海の波のように吹きどよもした。その秋、ぶきみに焼けた夕雲の下に無数の白花をつけて、人々をおののかせた枯木も、いまは空もくらむほど、もの…

男の絆の比較文化史、妖異金瓶梅

佐伯順子『男の絆の比較文化史』を読んだ。男色、衆道、同性愛、少年愛、あるいは友情といった言葉で表現される男性同士の親密な関係性=〈男の絆〉がどう描かれてきたか、中世の稚児物語から現代の漫画までを通して概観できる本。夏目漱石の『坊っちゃん』…

南の雪とだめになったぼくたち(陸秋槎『雪が白いとき、かつそのときに限り』、魯迅『酒楼にて』)

陸秋槎の小説『雪が白いとき、かつそのときに限り』を読み返していたら、序章の中に北と南の雪の違いについての一節を見つけた。 南の土地の雪というのはあまり見栄えのしないもので、縮こまり氷の粒になってしまうか、もしくはべちゃりと広がった姿で一団一…

山田風太郎と『蛍雪時代』──戦中派受験小説

はじめに 山田風太郎といえば『甲賀忍法帖』や『警視庁草紙』などを書いた時代小説の大家というイメージがあるが、もともとは江戸川乱歩に見出され推理小説でデビューした人だった。 ……と思っていたが、実は風太郎はデビュー以前に『受験旬報』(後に『蛍雪…

司馬遼太郎の大阪外語入学年を特定した記録

はじめに 司馬遼太郎が大阪外国語学校に入学したのは、1941年か、1942年か。 ふとしたことから、この単純な「年号」の記述が本や論文によって異なることに気がついた。 結論から言うと、正解は1942年である。 だが、それを特定するまでがなかなか大変だった…

正月バフの菊菜、エピグラフの楽しみ方、ノーサンガー・アビー

あけましておめでとうございます。 年末年始は大晦日と元旦だけ実家に帰り、あとは自宅でいつも通りに過した。 ので、すでに特別感のない普段の連休明けと同じ感覚になっているのはいいことなのか、悪いことなのか。 帰省するとき家族に春菊を買ってくるよう…