とろろ豆腐百珍

読んだ本の感想などを書きます

レッツゴー怪奇組、リコリス・ピザ、堕落

 最近読んだり観たりしたものの感想です。

 

 オモコロで連載されているビューさんの『レッツゴー怪奇組』3巻を読んだ。ちょっと前に発売されてすぐに買ってしばらく積んであったのだけど、安定して面白い。古くなった洗濯機(の霊)の挙動に思い当たる節がありすぎて一番笑った。「また家電の話かよ」と言ってる通り家電と家具と食い物の霊の話が多い漫画だ。チャーハンの霊とか。それでいて怖いところはちゃんと怖いのが、怪奇組のすごいところだと思う。

『レッツゴー怪奇組』と森とんかつ『スイカ』で、去年から自分の中でホラーギャグ新時代が来てます。

 

 

 ポール・トーマス・アンダーソン監督『リコリス・ピザ』を観た。友人に勧められてとにかく公開しているうちにと思って映画館に駆け込んだのだけど、いまいち話についていけなかった。70年代のアメリカ、サンフェルナンド・バレーを舞台にした青春コメディ。解説サイトを見ていると、監督やその知人、役者とゆかりのある舞台や設定が多く用意された半ば自伝的な作品のようで、実際当時のアメリカを懐かしんだり茶化したりしている空気を観ていて感じた。とはいえ、こちらはアメリカ人ほどアメリカ文化に懐かしみを覚えちゃいないので、取り残された気分になってしまった。ところどころ挟まれるギャグも、「真面目にやってませんから」の体をとる福田雄一的な「茶化し」を感じて肌に合わず。

 

eiga.com

 

 あとは、高橋和巳の長編小説『堕落』を読んだ。満洲国建国の陰謀に加担した主人公・青木隆三が戦後は混血児養護施設の園長として求道者のような生活を送るが、その業績が表彰された瞬間から狂気に走っていくというストーリー。戦前戦中の満洲国、戦後の養護施設経営、オリンピック前夜の現在がフラッシュバックしながら重ねられていく。

 面白く読んだけれど、同じ作者の『邪宗門』のようなスペクタクルを期待していたので物足りなさも感じた。その違いは、『邪宗門』は世直しの夢にかけてテロリズムに走る新興宗教団体の破滅までを描いていて、『堕落』は満洲国の「五族協和」「王道楽土」の理想が崩壊したあとの罪をどう清算するかが描かれているからだろう。

水滸伝』でも『平家物語』でもなんでもそうだが、たとえ最後は滅ぼされるとしても野望を抱いたならず者が力を合わせて勢力をのばしていく様はワクワクするが、滅んだあとの後始末は盛り上がりに欠ける。『堕落』の主人公にならって『三国志』に例えると、諸葛亮が死んだあとの三国志を読みたい読者は限られるのと同じだ。

『堕落』で一番印象に残ったのは「理論を失った人間は逸話と暗喩に生きる。青木にとって、それは最後の自己満足の糧だった」という辛辣なフレーズでした。逸話と暗喩ばかりに生きててごめんなさい。