とろろ豆腐百珍

読んだ本の感想などを書きます

『神クズ☆アイドル』感想 ファンとアイドルのエネルギー相互補完問題

 いそふらぼん肘樹『神クズ☆アイドル』の1〜6巻を読んだ。

 いや、め〜ちゃくちゃおもしろい!!!!

 

 

 作者の肘樹さんのことはWEBラジオ『人生思考囲い』にゲストで出演していたのをきっかけに知り、「オモシレー女…」(失礼)となってツイッターアカウントはフォローしていたのだが、読まなきゃ読まなきゃと思いつつ神クズには手を出せていなかった。

 

 この夏のTVアニメ化を機に5巻、6巻の特装版を含む既刊が書店に展開されているのを見てようやく購入し、先日一気に読み進めた。そこから放送終了したアニメ全話をdアニメで追いかけ視聴し、特典小冊子読みたさに2巻3巻4巻の電子特装版を購入し、ZINGSの楽曲をプレイリスト登録して四六時中流し……ともかく今になって完全にハマっている。

 

 神クズアイドルは、アイドルユニットZINGS所属の顔はいいがまったくやる気がないアイドル仁淀ユウヤと、死んでもアイドルやりたいめちゃくちゃやる気のあるアイドルの幽霊最上アサヒがバディを組んでトップアイドルを目指す話で、誰かを応援する/される存在としてのアイドルたちとオタクたちの生き様が描かれたとにかく熱い漫画である。

 

 誰かを応援するって、すごいエネルギーのいることだと思う。それが報われるものとは限らない、報われるかどうかは相手次第なものだけになおさらだ。

 私にはアイドルの推しはいないけれど、ひいきにしているサッカークラブがあって、毎日のように一喜一憂している。

 試合の結果ももちろんそうだけれど、有望選手が他チームに引き抜かれては叫び、長年苦労してきた選手が代表に選出されては喜ぶ。公式HPにアップされた監督の短いコメント一つから次の試合の戦術や起用方針について妄想している様は、仁淀がSNSを更新するたびに荒れるZINGSオタそのものだ。

 そしてサッカーの結果において、ファンの応援が結果に反映されることはまれだ。ほとんどないと言ってもいい。ファンの声援が選手の背中を後押しするというけれど、合理的に考えればチームがよい成績をおさめるために必要なのは、選手や監督のがんばりだ。がんばれゴエモン? お前に言われなくてもゴエモンはもうがんばってるよ……。

 正直その事実に打ちのめされそうになることもある。「なんで俺がこんなに応援しとるのに大学生に負けんねん!!(天皇杯二回戦敗退)」「こんなに苦しいのなら、シャーレなどいらぬ(サウザー)」と何度なったことでしょう。

 それでも多くのファンが現地で、自宅で、居酒屋で毎週末チームを応援するのは、”推し”チームがそれだけのエネルギーをファンに与えてくれているということだろう。そしてたとえ結果に反映されなくても、ファンの応援が選手があと一歩踏み出すためのエネルギーになっているのも事実(と思いたい)。

 神クズアイドルで描かれるアイドルとファンの関係も同じようなもので、ステージを介して巨大なエネルギーの相互補完が行われていて感動してしまう。

 

 どうしてファンの人たちは金にもならないのに自分のことを応援してくれるのだろうという仁淀の疑問に「愛です!」と答えるアサヒちゃんも、からっぽだった自分に元気をくれた最上アサヒのようなアイドルを目指し「ファンに喜んでもらえる姿」を見せようと努力し続ける瀬戸内くんも、アサヒのように「みんなのため」ではなく誰かのためにステージに立とうとするチカゲちゃんも、みんなみんなかっこいい(こうして見ると生前のアサヒちゃんの偉大さが際立ちますね)。

 6巻では、黒騎士アイドル・七瀬ヤクモとファンの黒いちごさんのエピソードがまず一番に心を打った。黒騎士の世界観を飛び越えて変わっていくヤクモの推しをやめるという黒いちごの決断が、前向きなものとして描かれていてとてもよかった。

 自分の好きなものが変わってしまったのを認めるなんて怖いことだし、しがみついてしまいたくなるものなのに、ドラマに出て変わったヤクモを見て「似合ってるよね あの服も……」と言える黒いちごさんは強い。

 変わっていく推しから離れて自分の世界を守る選択、誰かを失望させてでも新しい自分に変わる選択、どちらかが正しいのではなくどちらも尊重されるべきものだ。

 塩対応だった仁淀のもとにアサヒちゃんがやってきて突然神対応を始めたときに離れてしまった、おそらく存在しただろうZINGSオタの選択も決して間違いではないんだよな。

 肘樹さんはカバー裏漫画で「黒いちごさんは若干神クズらしからぬ結末となりましたが…」と書いているけど、アイドルとファンの関係にいろんな角度から光を当ててきた神クズらしいとても真摯な展開だと思った。

 


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迷っていたいだけでした お別れ言わせて

毎度お馴染みの理由で また延長

臆病な私に必要だったのは

小さな勇気じゃなくて 本当の恐怖 ほら朝が来る

BUMP OF CHICKEN「morning grow」)

 

 5〜6巻のヤクモ編を読み返すたびにBUMP OF CHICKENの「morning grow」を思い出すのだけれど、そういえばこの曲のまさにこのフレーズを教えてくれたのも神クズアイドルと同じく『人生思考囲い』(第27回)だった。

 


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 推しはいないと書いたけれど、私はじんしこ箱推し勢かもしれないな。

 ピエール手塚さんの単行本デビュー! 記念生配信! 阿佐ヶ谷ロフトでのリアルイベント! オリジナルグッズ発売! ……と、今週はじんしこイベントが盛りだくさんでうれしい。

 この日曜は憧れの人たちに会ってエネルギーをたくさんもらってこようと思います。