とろろ豆腐百珍

読んだ本の感想などを書きます

林芙美子『浮雲』の感想

林芙美子『浮雲』を読んだ。戦時下の仏印で出会って恋に落ちた男女二人が、敗戦後の日本で落ちぶれながらどうにかこうにか生きていくというストーリー。私はこの話を、虹を見てしまった人の残酷な運命を描いているなと感じながら読んでいた。 作中で「虹のよ…

もしも学校にテロリストがやってきたら(月村了衛『槐』)

「もしも学校にテロリストがやってきたら」という妄想をしたことがありますか? しかもそのテロリスト相手に自分が大活躍してヒーローになる妄想を。 こんな妄想をしていた人は大体クラスで目立たない内気な少年少女だったと思うのですが、普段目立たない俺…

武田泰淳『ひかりごけ』の感想

武田泰淳の中編小説四篇を集めた新潮文庫本『ひかりごけ』を読んだ。収録順に「流人島にて」「異形の者」「海肌の匂い」「ひかりごけ」と続き、どれも1940年代後半~50年代前半の作品。 四つの作品どれにもいえることだが、光の描写、色彩の描写に力が…

負けヒロインは勝負に負ける性格か(坂口安吾『勝負師』)

負ける性格、というものがあるか、どうか。 ラブコメ漫画やライトノベルのキャラクター属性の一つに「負けヒロイン」というものがある。負けヒロインとは、主人公に思いを寄せていながらも様々な事情により、物語の結末で結ばれなかった(結ばれなさそうな)…

『エアマスター』とランキングを超えた何か

柴田ヨクサルの『エアマスター』はストリートファイターの相川摩季(通称エアマスター)が色んな強敵とストリートファイトをする話で、大まかに3部構成に分けることができます。路上で出会う様々なストリートファイターと勝負をしていく序盤、ストリートフ…

化け物は怖いけど、好きな人は好き(舞城王太郎『深夜百太郎』「三十六太郎 横内さん」)

パニック映画のよくあるツッコミどころに「危険な所でイチャつくカップル」があります。 人食いザメが出るビーチで、もう何人も犠牲者が出ているのに情熱的な愛を交わす男女が出てきたら、観客としてはいやはよ逃げろやと思うわけです。で、そういう人たちに…

陸秋槎『雪が白いとき、かつそのときに限り』

短い文章はなるべくnote(陸秋槎『雪が白いとき、かつそのときに限り』|宇多川八寸|note)に書くようにしてるのですが、読書感想文が思ったより長くなったのでこちらにも載せます。 前作『元年春之祭』で、前漢時代を舞台にした美少女百合ミステリという離…

ダウンロード百合/アンインストール革命(月村了衛SFマガジンインタビュー感想)

SFマガジン2019年2月号〈百合特集〉に掲載された月村了衛のインタビューがnoteに公開された。『機忍兵零牙〔新装版〕』の発売に合わせての公開だが、このインタビュー読みたさに、早くもプレミア化しているSFマガジンをAmazonのほしい物リストにぶちこん…

次は拳骨にしたいと思います(山下泰平『舞姫の主人公をバンカラとアフリカ人がボコボコにする最高の小説の世界が明治に存在したので20万字くらいかけて紹介する本』)

「舞姫」の主人公をバンカラとアフリカ人がボコボコにする最高の小説の世界が明治に存在したので20万字くらいかけて紹介する本 作者: 山下泰平 出版社/メーカー: 柏書房 発売日: 2019/04/26 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る 聞いてくださいみな…

ノワールと機忍兵零牙について

アニメ『ノワール』と『魔法少女まどか☆マギカ 叛逆の物語』を見た。 前回投稿したまどマギの二次創作がハーメルンでそれなりに読んでもらえたようなので、まどマギの話をしたほうがいいのだろうが、『ノワール』について書く。以下ネタバレです。 殺しの技…

もしも森鴎外が「魔法少女まどか☆マギカ」を観てから「舞姫」を書いたら

1. 「いざエリス、我と契りて魔法少女となりてよ」 いとらうたき白き獣ぞ我にたづぬる。四方よりは、げに恐ろしげなる「魔女」の「結界」の我に迫り来つつあり。 あゝ、誰が知りけむや、「ヰクトリア座」の舞姫とて多少は 都みやこ 人びと どもに名を知られ…

私はヤンキーになりたかった(知念渉『〈ヤンチャな子ら〉のエスノグラフィー』)

自分の話から始める。 中学校三年生のときに学級が崩壊した。 毎週どこかのガラスが割られていたし、毎日火災報知器が鳴らされていた。校庭に吸殻、教室に空き瓶、トイレに避妊具。誰かが首を締められてオトされている光景が日常茶飯事だった。 別に一部の不…

ラフラのように

MONDO GROSSOの「ラビリンス」を聞いていたら、満島ひかりが「迷い込んで ラフラのように」と歌っていた。 ラフラとは何か。 La Fla フランスかスペインか、どこかヨーロッパの南の方、地中海の強い日差しが似合う響きだと思う。 ぱっと思い浮かんだのは細か…

60年代インテリ小説とフェティシズム

インテリという言葉が輝いていた時代があったらしい。 夏目漱石やなんかが帝大で教えていた明治末から学生運動が流行らなくなる70年代ごろまで、主に大学で学問と教養を修めた人間は人間がデキてきて、人間がデキた人間には世の中を良い方向に導いていくこと…

名の効用

映画『レディ・バード』を見た。 ニューヨーク(都会)の生活に憧れながらサクラメント(田舎)のカトリック校に通うクリスティン(シアーシャ・ローアン)が過ごした高校最後の一年間の青春。 物語の最後、親からもらった名前に反抗してレディ・バードとい…

茶の話

たまにお〜いお茶を飲むと旅行に来た気分になるね。 自分が平生好むところのお茶は綾鷹なので、お〜いお茶を口にするのは研修や出張、合宿といった場で他人から供されたときがほとんどだ。もしくは仕出し弁当に付いてきたときなど。 そうしたものに伴う日常…

1R1分34秒

町屋良平「1R1分34秒」を読んだ。 昼休みに喫茶店で読んだのだが、この疾走感は何なのだろう。 休みを切り上げて職場に戻ってもまるで仕事をする気にならない。 そのとき手元にあったメモ帳には 「文字を追う眼球を思考の速さが追い越して毛細血管をふっ…

日記について

日記をつける。 最近は日記に関する文章を読むことが多い。 わかりやすいところでは、荒川洋治という人のエッセイ『日記をつける』。 有名無名、いろんな人の日記や日記のようなものを紹介した本。 好きなのはゲーテの「イタリア紀行」を引用したあとの一節…

イキ告の系譜 ~『三四郎』から斉藤由貴まで~

オタクは行き成り告白をする。 修学旅行で、卒業式で、成人式で、オフ会で、同窓会で。 いちど声をかけてもらっただけの同級生に、料金内のサービスをしただけの風俗嬢に、初対面のフォロワーさん(成人済)に。 好きでもない相手からの唐突なイキ告は現実世…

映画『勝手にふるえてろ』とパンクブーブーの死

昨年綿矢りさ原作『勝手にふるえてろ』映画化の報に接したとき、キャストを確認して軽く失望した。 なぜパンクブーブーがいないのか。 "ニ"がパンクブーブーではないのだ。黒猫チェルシーのボーカルなのだ。 自分は原作小説を読んだときから"ニ"を実写化する…

オーラル・ヒストリーは『ねほりんぱほりん』他に追い付けるか(大門正克『語る歴史、聞く歴史』)

話を聞くのが苦手だ。いや話すのも得意ではないが。自分の持っているエピソードのストックを放出するのは欲するところなのだが、他人の話を引きだしたりふくらませたりということをあまり欲せざるような案配なので会話が続かない。質問力、傾聴、絶無。コミ…

朝ドラが嫌い(佐藤卓己『青年の主張 まなざしのメディア史』)

朝ドラが嫌いだ。 朝ドラを嫌いな人間にとって家族そろっての朝の食卓は一家団欒の証ではなく、不愉快な一日の予告編でしかない。わが家の食卓でもいつも朝ドラが流れていたが、町子だの陽子だの梅ちゃん先生だのの恋の行く末や事件の展開について語り合う両…

ハレグゥとスペシャル

トーチwebで連載中の平方イコルスン『スペシャル』を2巻まで読んだがめちゃ良かった。変と和(なご)がそのまま共存しとる世界。特に2巻で葉野が一歩踏み出す時の臆とか悔とか勇とか「仲良くなる」ってこういうことだよなー、って感じでコミュニケーション…

おたくたちのセーラー服と機関銃

最近『セーラー服と機関銃』という映画を観た。橋本環奈や長澤まさみではなく薬師丸ひろ子主演のやつだ。 薬師丸ひろ子の無垢な可愛さと二作目の相米慎二監督ら演出を手掛ける大人たちのギラギラに尖った暗いエネルギーが互いを際立たせていて面白かった(中…

「おかげサマー」考―広瀬と前田が出会うとき―

もう12月、「冬が寒くって本当に良かった」とか言い出した輩を燃やして暖を取りたい季節になってきた。 しかし人間とは過ぎ去った季節を懐かしむもの。ここは敢えて夏を懐かしむしかない。TUBEを聴くしかない。という訳で今年の夏に出たTUBEの30…

二人の「ユリア…永遠に」

北斗の拳の劇中でケンシロウは数多くの強敵(とも)と拳を交えた。最大の強敵は言うまでもなくなくラオウだが、僕が一番好きなのはケンシロウ最初の強敵シンだ。 南斗孤鷲拳の使い手にして、殉星の男シン。ユリアへの報われぬ愛のために生きた彼の生き様は哀…

世界に一つだけのあらすじ

ぷらっと入った本屋で何気なく本を選ぶとき、みなさんは何を基準に手に取る一冊を選ぶだろうか。お気に入りの作者の名前? きれいな装丁? 値段? どこに目を付けるかは人それぞれだが、こと文庫本の場合多くの人は棚から抜き出した一冊を手の上でひっくり返…

甲子園と応援歌と

テレビを付けた瞬間7-0という点差が目に入ってこれは負けたな、と思った。仙台育英強かった。早実の選手もお疲れ様です。 我が家の両親は早稲田OBのため今年の甲子園は缶ビールを片手にテレビに向かって「早稲田!早稲田!早稲田!オー慶応倒せ~!!」な…

ブログ

ブログ。 Twitterには収まらないけれど、日記に書くようなことでもないことをそっと置いていく。 そんな、ブログ。