とろろ豆腐百珍

読んだ本の感想などを書きます

読書

負けヒロインは勝負に負ける性格か(坂口安吾『勝負師』)

負ける性格、というものがあるか、どうか。 ラブコメ漫画やライトノベルのキャラクター属性の一つに「負けヒロイン」というものがある。負けヒロインとは、主人公に思いを寄せていながらも様々な事情により、物語の結末で結ばれなかった(結ばれなさそうな)…

『エアマスター』とランキングを超えた何か

柴田ヨクサルの『エアマスター』はストリートファイターの相川摩季(通称エアマスター)が色んな強敵とストリートファイトをする話で、大まかに3部構成に分けることができます。路上で出会う様々なストリートファイターと勝負をしていく序盤、ストリートフ…

化け物は怖いけど、好きな人は好き(舞城王太郎『深夜百太郎』「三十六太郎 横内さん」)

パニック映画のよくあるツッコミどころに「危険な所でイチャつくカップル」があります。 人食いザメが出るビーチで、もう何人も犠牲者が出ているのに情熱的な愛を交わす男女が出てきたら、観客としてはいやはよ逃げろやと思うわけです。で、そういう人たちに…

陸秋槎『雪が白いとき、かつそのときに限り』

短い文章はなるべくnote(陸秋槎『雪が白いとき、かつそのときに限り』|宇多川八寸|note)に書くようにしてるのですが、読書感想文が思ったより長くなったのでこちらにも載せます。 前作『元年春之祭』で、前漢時代を舞台にした美少女百合ミステリという離…

ダウンロード百合/アンインストール革命(月村了衛SFマガジンインタビュー感想)

SFマガジン2019年2月号〈百合特集〉に掲載された月村了衛のインタビューがnoteに公開された。『機忍兵零牙〔新装版〕』の発売に合わせての公開だが、このインタビュー読みたさに、早くもプレミア化しているSFマガジンをAmazonのほしい物リストにぶちこん…

次は拳骨にしたいと思います(山下泰平『舞姫の主人公をバンカラとアフリカ人がボコボコにする最高の小説の世界が明治に存在したので20万字くらいかけて紹介する本』)

「舞姫」の主人公をバンカラとアフリカ人がボコボコにする最高の小説の世界が明治に存在したので20万字くらいかけて紹介する本 作者: 山下泰平 出版社/メーカー: 柏書房 発売日: 2019/04/26 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る 聞いてくださいみな…

ノワールと機忍兵零牙について

アニメ『ノワール』と『魔法少女まどか☆マギカ 叛逆の物語』を見た。 前回投稿したまどマギの二次創作がハーメルンでそれなりに読んでもらえたようなので、まどマギの話をしたほうがいいのだろうが、『ノワール』について書く。以下ネタバレです。 殺しの技…

私はヤンキーになりたかった(知念渉『〈ヤンチャな子ら〉のエスノグラフィー』)

自分の話から始める。 中学校三年生のときに学級が崩壊した。 毎週どこかのガラスが割られていたし、毎日火災報知器が鳴らされていた。校庭に吸殻、教室に空き瓶、トイレに避妊具。誰かが首を締められてオトされている光景が日常茶飯事だった。 別に一部の不…

60年代インテリ小説とフェティシズム

インテリという言葉が輝いていた時代があったらしい。 夏目漱石やなんかが帝大で教えていた明治末から学生運動が流行らなくなる70年代ごろまで、主に大学で学問と教養を修めた人間は人間がデキてきて、人間がデキた人間には世の中を良い方向に導いていくこと…

1R1分34秒

町屋良平「1R1分34秒」を読んだ。 昼休みに喫茶店で読んだのだが、この疾走感は何なのだろう。 休みを切り上げて職場に戻ってもまるで仕事をする気にならない。 そのとき手元にあったメモ帳には 「文字を追う眼球を思考の速さが追い越して毛細血管をふっ…

イキ告の系譜 ~『三四郎』から斉藤由貴まで~

オタクは行き成り告白をする。 修学旅行で、卒業式で、成人式で、オフ会で、同窓会で。 いちど声をかけてもらっただけの同級生に、料金内のサービスをしただけの風俗嬢に、初対面のフォロワーさん(成人済)に。 好きでもない相手からの唐突なイキ告は現実世…

オーラル・ヒストリーは『ねほりんぱほりん』他に追い付けるか(大門正克『語る歴史、聞く歴史』)

話を聞くのが苦手だ。いや話すのも得意ではないが。自分の持っているエピソードのストックを放出するのは欲するところなのだが、他人の話を引きだしたりふくらませたりということをあまり欲せざるような案配なので会話が続かない。質問力、傾聴、絶無。コミ…

朝ドラが嫌い(佐藤卓己『青年の主張 まなざしのメディア史』)

朝ドラが嫌いだ。 朝ドラを嫌いな人間にとって家族そろっての朝の食卓は一家団欒の証ではなく、不愉快な一日の予告編でしかない。わが家の食卓でもいつも朝ドラが流れていたが、町子だの陽子だの梅ちゃん先生だのの恋の行く末や事件の展開について語り合う両…

ハレグゥとスペシャル

トーチwebで連載中の平方イコルスン『スペシャル』を2巻まで読んだがめちゃ良かった。変と和(なご)がそのまま共存しとる世界。特に2巻で葉野が一歩踏み出す時の臆とか悔とか勇とか「仲良くなる」ってこういうことだよなー、って感じでコミュニケーション…