とろろ豆腐百珍

朧夜や誰れを主と言問はむ

「おかげサマー」考―広瀬と前田が出会うとき―

 もう12月、「冬が寒くって本当に良かった」とか言い出した輩を燃やして暖を取りたい季節になってきた。

 しかし人間とは過ぎ去った季節を懐かしむもの。ここは敢えて夏を懐かしむしかない。TUBEを聴くしかない。という訳で今年の夏に出たTUBEの30周年記念アルバム「Your TUBE+My TUBE」を今さら借りてきた。

Your TUBE + My TUBE

Your TUBE + My TUBE

 

 

 「Your TUBE」と「My TUBE」の二枚構成になっているこのアルバム、目玉は何といっても 15組のアーティストが書き下ろした新曲をTUBEが歌うYour TUBEだろう。玉置浩二奥田民生といった大御所の作品や、作詞TAKURO(GRAY)作曲松本(B'z)、作詞大黒摩季作曲織田哲郎の共作まであって実に豪華なラインナップになっている。

 では早速収録順に聴いてみよう。一曲目は作詞・作曲広瀬香美の「おかげサマー」で・・・・・・ん?

広瀬香美

そして流れ出したのは馬鹿に陽気なサックスを吹き鳴らすイントロ。一瞬己の目を(いや耳を)疑ったが、なんとあの冬の女王広瀬香美TUBEに曲を提供していたのだ。

 この「おかげサマー」曲の方はイントロから伺えるとおりハイテンションで唐突に高音を張り上げる香美イズム全開の作品になっているのだが、それに輪をかけて詞の方がすごいことになっている。

 全体を通して見ると陽気なサラリーマンが周囲の仲間に支えられながらがんばるという内容になっていて、30周年を迎えたTUBEに対する応援メッセージとしてそれはそれでいいのだが、注目していただきたいのはそのサラリーマンの”がんばり”っぷりなのである。

 まず一番のAメロ、主人公の男は大事な会議の日に遅刻しそうになるのだが

ヤな予感して飛び起きた アラーム悲鳴あげてた

ドッと家を飛び出した でも遅刻は決定だ ヤッベェー

 全くヤバさを感じられない。

優しいあの子にメールした 会議資料お願いします

オッケー すぐ返事が来た

今日のランチ高くつくっぜ ベイベー

  イラッ!ここのところ、文字にするとそれほどでもないですが、実際の歌い方を聴くと相当イラッとします。しかしこの”ダメ親父”感は二番に入ってさらなる進化をみせる。

上司にこっ酷くやられた 絶望的に落ちてた

ランチに行こうあの子から 甘い声で誘われた いいねー

やっぱ俺にホレてるでしょー 永遠は偶然の産物

アクシデントもチャンスに変えて 起死回生があるからやめられられない

 はい、ここまで読んだOLの皆さんは「ああ、職場にこういうおっさんいるよね・・・」と思ったのではないでしょうか。そう、この歌に出てくる”がんばる”サラリーマンは若手にウザがられそうなちょっと面倒くさい中年男性なのだ。バブル時代のイケイケ感が今でも通用してると思ってそうな、飲み会に参加するのは当然の義務だと思ってそうな、最近の新人は元気が足りないまずは挨拶からだオハヨウ声出してけとか思ってそうな、若い頃の文化を捨てられないまま時代の変化に取り残され、置いてけぼりにされたことにも気づかずに道化を演じている少し悲しいおっさんだ。

 そしてそれはTUBEに対する批判的な見方からのメタファーにもなっている。広瀬香美がそこまで計算してこの楽曲を作ったのならすごいと思うと同時に底意地の悪さを感じるが、恐らく彼女はこんな受け取られ方をするとは意識していなかったにちがいない。TUBEが歌うならこんな感じだろうというのを想像していつも通りに作ったのだろう。その広瀬の曲と詞を前田亘輝が歌ったとき、曲の明るさと前田の故意におっさんを強調するような歌い方、そして聴く側のTUBE・広瀬に対して抱くイメージ(バブリー、夏/冬の枠から飛躍できない色物)が作用しあって、滑稽なまでに陽気で一つずらせば皮肉になりかねない曲が生まれたのだと思う。

広瀬香美とバブルについてはこちらのブログが興味深い考察をされていた

バブル文化って何だったのか - arwtw

 一点の曇りもない秋の青空は不安を秘め、底抜けの明るさは哀愁を感じさせる。広瀬香美前田亘輝の出会いもまたかくあるものなのか。 

Your TUBE + My TUBE(初回生産限定盤B)(DVD付)

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 (初回生産版。パッケージはお中元をイメージしたらしい)

 ちねみに僕は広瀬香美TUBEも好きだし「おかげサマー」も嫌いじゃないです。YourTUBEだとクレイジーケンバンド横山の「タイムトンネル」と玉置浩二の「スコール」が良かった。